インド 薬の話

インドは世界一のコロナワクチン生産量を誇る。ワクチンだけでなく医薬品全般の生産大国でもある。特に抗生物質では生産量、消費量ともに世界一である。

抗生物質は感染による病気の原因となる細菌を殺すためのとても重要な薬だ。第二次大戦中に抗生物質であるペニシリンが多くの兵士の命を救ったことは有名な話である。

しかし、この抗生物質がインドで問題となっている。使い過ぎることで細菌が薬と戦ううちに変異を起こして抵抗力をつけて、既存の抗生物質が効かなくなってしまうというのである。公衆衛生のインフラ整備が遅れているために飲み水に細菌がはびこっており、生水を飲むと細菌に感染して病気に罹ることが多い。その場合、医者は治療薬として抗生物質を処方する。市販薬は薬局やスーパーでも50ルピーほどと安く手に入れることが出来る。デーリーでは生水を飲んで腹を壊すと医者にはいかずに市販の抗生物質を買って飲んで直すことが当たり前となっているようだ。

新型コロナ感染症が流行しだした当初、抗生物質は万能薬だと思ったのか、多くのインド人が自分の判断で治療薬として服用した。しかし、抗生物質は細菌には効いても、コロナウィルスには効かないことは自明である。

ハイデラバードの近くには多くの製薬工場があるが、そこから抗生物質を含んだ排水が流れ出し、ハイデラバード市民の水道水の水源に流れ込んだとの報告もあった。水源にいる細菌が抗生物質に対する抵抗力がつけてしまう恐れも考えられる。そのためか政府は製薬工場から出る排水のなかの抗生物質濃度を制限する法律を制定している。公衆衛生の状況を改善して抗生物質をあまり使わずに済むようにすることが待たれる。

児玉 博嗣

インドをはじめ、世界各地の火力発電所の発電設備の保守管理を技術面から サポートする仕事を30年以上、発電所の人たちと一緒に手がけてきた。 趣味は歴史書の読書、エッセイーや掌編小説の執筆、町の散策と多岐にわたる。 幅広い国際経験を生かし、インド・日本の双方のウィン・ウィンの関係の構築 に貢献したい。

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